オススメされて読んだのだけど、お世辞抜きでハマりました。
自分ではない別の何かに変身してしまう不思議な現象。
それによって暴かれる、自分を見失うほどの不安や不満を抱えた少年少女の憂鬱な心情。
思春期の繊細な心にそっと触れつつ、まるごと優しく包み込んでくれるかのような物語でした。
辛くてしんどくて座り込んでしまう時、「がんばれ」も「わかるよ」もいらないから、ただ誰かに隣に座ってほしいことってありません?
私の印象だけど、これはそういうお話だと思うんです。
そういう風に読んじゃったから、なんかもう刺さるわ癒やされるわで感情が大変だった。
友情と恋愛の青春小説としても大満足です。青春小説特有の終盤の疾走感が満点すぎる。
これは是非とも書籍化してほしいなぁ。手元にずっと置いておきたい小説だ・・・・・・
☆あらすじ☆
音楽が好きな高校生・三田村真也はある日、夜の散歩中にクラスで浮いた存在の美少女・長瀬夜子と出会う。どこかおかしな彼女の態度に、彼は自分が黒猫の姿に変わっていることに気づく。その日からふたりは、人が別の姿へと変わってしまう、不思議な事件に遭遇していく。
以下、ネタバレありの感想です。
進路調査の紙を白紙で出した夜、散歩をしていたら黒猫に変わってしまった高校生・三田村真也。
彼の身に起こったのは、コンプレックスや現実逃避から「自分ではない何か」に変身してしまう不思議な現象だった。
クラスメイト・長瀬夜子に変身現象のことを聞き、そして彼女に救われた真也。
急速に仲良くなる二人は、それ以降も様々な変身現象に遭遇し、悩める同級生たちに寄り添っていくことになるのです。
さて何から書こうか。
まずこれ、少年少女の悩みが等身大ですごく共感できて、それだけに刺さるんです。
「石」になった女子高生の苦しさとかね、昔の自分のことを言われてるかのようだった。
「今のが好きなやつなの。好きでやったら同じになるの。伴くんにはわかんないよ。みんな個性とか自分らしさとか言うじゃん。大事だよね。でも、やりたいように自分らしくやったら他と被る人はどうすればいいわけ?」
だったら石でいいよ。考えなくていいの、楽じゃん。
石になった少女は誰なんだ?と推理するシーンで、彼女を襲った羞恥心とか苦渋とか強烈に理解できてしまった。
私もきっとそうだったから。
自分が好きなものも、得意なものも、何ひとつ個人を判別できるほどの特徴がない。
「これが私だ」という個性が自分で分からない。
たとえ私が記憶喪失の石になっても、きっと消去法で正体を探られるんだろうな、と思ってしまいました。つら・・・・・・
高校生のときとか自分の無個性さに笑ってたなぁ。笑うしかなかったから。
この子をはじめ、自分を見失って変身した少年少女が抱える悩みって、他人からすれば何でもないことで、大人になっていく過程で擦り切れていく痛みだとも思うんです。
だから、この瞬間こそ最大限に心が痛いんだと思う。
心の痛みを自覚して、無難にやり過ごすこともできなくて、苦しさの中で自分のことすら分からなくなって。
そうして「変身」してしまって・・・・・・
この「変身」が「なりたい自分」に変身するわけじゃないのも、すごく興味深いポイントなんですよね。
黒猫も、女の子も、石ころも、それになりたくて変身するわけじゃない。
「そうなってもいいや」「こうだったら良かったのかな」「自分なんてこんなんじゃん」みたいな、すごく後ろ向きな変身願望なんです。そういうところにも彼らの苦しさを感じてしまう。
どうせなら明るくなれる何かに変身できたら良かったのに。
いや違うな、何に変身しても自分は結局自分でしかないんです。
それを受け入れるための変身だから、これで良かったんだ。
むしろ最後はそういう後ろ向きな変身を自分の武器にしちゃうんだからすごいよなぁ。
傷つきやすい柔らかな心を持っているけれど、同時に、彼らはどこまでも強くなることができる。
その無限の可能性がまぶしくて、ああ青春小説を読んでる・・・!と心がたかぶりました。
そういう少し不思議な青春に、真也と夜子は関わっていきます。
遭遇した事件を探偵のごとく解決するというよりも、苦悩する同級生たちの話を友達として真摯に聞いてくれる感じ。
「寄り添う」という言葉がぴったりだと思う。
元気を出せと必死に励ますわけでもなく、気負って共感や理解を示すわけでもない。手を引いて正解に導くわけでもない。
でも迷子になってしまわないように、気にかけて付き添ってくれるというか。選択を見守ってくれる感じというか。
この雰囲気がとても心地よくて好きでした。
事件を解決する度に一人ずつ仲間が増えていくのも良いですよね。
最終的に4人で仲良く問題に向かっていく雰囲気とか楽しかった。比喩として間違ってるかもしれないけれどRPGみたいで。ペル○ナ的な。
4人それぞれが自分の弱い部分を見せた上で一緒にいるためか、他人の弱さへの思いやりをすごく感じるんですよね。
優しいんだ。とにかく優しいの。
怒っていても、泣いていても、優しい子たちだなって思えるんです。
特に伴くんの優しさが本当に好き。
あんなに繊細で温厚な少年が友達のために怒りをむき出しにするの、ほんと良いなって・・・・・・伴くん幸せになってくれ・・・・・・
優しい友情がとにかく印象に残る作品なのだけど、私的には恋愛パートもすごく好きでした。
なんといっても最初の事件が良い。
「夜に溶けたい」(この言葉から伝わるゆるやかな絶望感、大変にエモくて好き)と言って猫になった真也が、夜の化身みたいな夜子に救われるシーン。
あそこで交わされる会話がすごく好きなんです。
なにげなく教えた好きなバンドのことを覚えてくれる女の子がいたなら、それだけでもう少し人間でいる理由になるよ。十分だよ。そういうの好きだよ・・・!
「神秘的な転校生の美少女」だった夜子が「寂しがり屋の女の子」として真也の心を救ったところも好き。
これはどこにでもいる普通の少年少女の青春を描くんだなって思えて。
不思議なことは起こるけれど、中心にいるのは何の変哲もない高校生なんですよ。
その象徴的なシーンだと思うし、全部読み終わった今もダントツに好きな一幕です。
そしてこの最初の事件が、最後の事件へと繋がる構成がまた最高。
「夜猫リフレイン」っていうサブタイも良いよね。というか本作のサブタイ全部良いです。このセンスとても好き。
かつて、いなくなった真也を探すために走った夜子。
それをリフレインするように、いなくなった夜子を探すために走る真也。
青春とは最後に走るものだよな!という私の勝手な期待に見事応えてくれるクライマックスでした。もう好き以外の言葉はいらないんじゃないか?ってくらい好き。
真也と夜子の苦しみが「夜に溶ける」という言葉で繋がるところも好き好きの好き。
相性が良いかわからないとか言われていたけれど、十分に相性が良いと思うよ。
ていうか音楽の話であれだけ仲良く出来たら十分だよ。
冬の夜にふたりで仲良くイヤホンを分け合ってほしい。。。
ああ〜〜〜、書きたいことも思うところもたくさんあったのに上手くまとまらない!!
とっ散らかった感想になってしまいました・・・・・・
とにかく好き!大好きなの、これ!!
読んで!!!!!!!
最初の「夜猫ジュブナイル」だけでもちょっと読んでみてほしい…
夜猫ジュブナイル – カクヨム https://t.co/iPExweHqLq
— みかこ (@amenaraneru) February 9, 2020